パーキンソン病の教科書
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第7章 自宅でできる自主トレ

科学的根拠に基づく、レベル別運動メニューと続けるためのコツ

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こんな方に: 毎日の運動メニューが知りたい方
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この章のねらい

週1回のリハビリだけでは、動ける体は守れません。
科学的根拠のある運動の種類・強度・頻度を整理し、ヤール別のメニューと、続けるための工夫まで網羅します。
「何を、どれくらい、どうやって」が全部わかる章を目指しました。

7.1 「スタジオに通っているから大丈夫」という落とし穴

「週に 1 回、リハビリに通っているから安心」

「先生にマッサージしてもらえば良くなる」

もしそう思っているなら、少し厳しいことをお伝えしなければなりません。

週に 1 回のリハビリだけでは、パーキンソン病の進行に勝つことは難しい のが現実です。

1 週間は 168 時間あります。そのうちの 1 時間、スタジオでどれだけ素晴らしいリハビリをしたとしても、残りの 167 時間を家でじっと座って過ごしていたら、体は元の状態に戻ってしまいます。

リハビリは、毎日コツコツ積み立てる 「貯筋(ちょきん)」 のようなものです。ドカンと一括で入金することはできません。

ここでは、「何を、どれくらい、どうやって」が全部わかるように、自宅でできる自主トレをまとめます。


7.2 運動はなぜ効くのか — 脳に何が起きるか

「運動した方がいい」とは聞くけれど、なぜ? 答えを知っておくと、続ける動機になります。

① 神経可塑性を引き出す

第 4 章で扱ったように、脳には 神経可塑性 — 新しい回路を作り直す力 — があります。[1]

運動はこの力を引き出す最も強い刺激の一つで、運動が脳の構造・機能にポジティブな変化をもたらしうることが、複数の研究で示唆されています。[1][2]

② BDNF(脳由来神経栄養因子)を分泌させる

中等度以上の有酸素運動を行うと、脳内で BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor) という物質の分泌が増えることが報告されています。[3]

BDNF は「脳の栄養因子」とも呼ばれ、神経細胞を保護し、新しいシナプスの形成を促す働きがあります。

ただし、軽すぎる運動では BDNF は十分に分泌されません。「ちょっとキツい」と感じる強度がポイントです。

③ 大規模 RCT が示すエビデンス

Schenkman et al. (2018, JAMA Neurology) の RCT では、診断早期のパーキンソン病患者を対象に、

  • 高強度トレッドミル運動群(最大心拍数の 80〜85%)
  • 中等度群(60〜65%)
  • 通常ケア群

の 3 群を比較。6 か月後、高強度群では運動症状の悪化が有意に抑制 されました。[4]

この結果は、「中等度以上の有酸素運動は、症状の進行を遅らせる可能性がある」という強い示唆を与えています。

④ ダンス・太極拳・水中運動も有効

近年のメタ分析では、ダンス・太極拳・水中運動・サイクリングなどが、運動機能・バランス・QOL の改善に寄与することが報告されています。[5][6]

「自分が楽しくて続けられるもの」を選ぶのが、長続きの最大の秘訣です。

覚えてほしいこと

運動は「保健体操」ではなく「治療」です。
やる種類と強度を選べば、進行を遅らせる可能性のある「薬」と並ぶ武器になります。


7.3 4つの運動を組み合わせる

米国スポーツ医学会・パーキンソン病財団は、4 つの運動要素を組み合わせる ことを推奨しています。[6][7]

運動の種類目的推奨頻度
① 有酸素運動心肺機能・BDNF分泌ウォーキング、エルゴメーター、水中運動週 3〜5 回 / 1 回 30 分
② 筋力トレーニング(レジスタンス)筋肉量維持・転倒予防スクワット、チューブ運動週 2〜3 回
③ 柔軟性(ストレッチ)固縮の緩和、関節可動域全身ストレッチ、ヨガ毎日
④ バランス・協調性転倒予防、姿勢制御片足立ち、太極拳、ダンス週 2〜3 回

「全部をきっちり」と考えると挫折します。

最低でも、有酸素運動とストレッチは毎日、可能ならそこに筋トレ・バランスを足す。それで十分です。


7.4 運動の強度をどう測るか

「中等度以上が良い」と言われても、ピンと来ないですよね。

シンプルな目安をお伝えします。

自覚的運動強度(RPE)で判断する

ボルグ・スケール(修正版 0〜10) という、自分の感覚で運動強度を測る方法があります。[8]

スケール感覚パーキンソン病の運動目安
0安静
1〜2とても楽ウォーミングアップ
3〜4ストレッチ
5〜6ちょっとキツい有酸素運動の理想ゾーン
7〜8キツい高強度トレーニング
9〜10限界避ける

「会話はできるけど、歌うのは難しい」 くらいの息のあがり方が、5〜6 の感覚です。

心拍数で判断する

心拍数で測るなら、最大心拍数の 60〜85% が目安です。

  • 簡易最大心拍数 = 220 − 年齢
  • 例: 65 歳の方なら 220 − 65 = 155 が最大値、その 60〜85% = 93〜132 拍/分 が目標

スマートウォッチなどで測れる方は、これを参考にしてください。

ただし、β遮断薬 など心拍数を抑える薬を飲んでいる方は、心拍数では正確に測れません。RPE で判断してください。


7.5 運動は「オン状態」に行うのが鉄則

自主トレの タイミング は、薬が効いていて体が動きやすい時間帯(オン状態)に行うのが原則です。[9]

なぜオン状態がいいのか

  • 転倒のリスクが低い
  • 動きが大きく取れる(リハビリの質が上がる)
  • 「動けた」という成功体験が脳に刻まれる(神経可塑性に有利)

オフ状態(薬が切れている時間)に無理に動こうとすると:

  • 筋肉を痛めるリスク
  • 転倒のリスク
  • 「辛い」「動かない」という嫌な記憶が脳に刻まれる

これは 「悪い学習」 を脳にさせてしまうことにもなります。

おすすめのタイミング

多くの方で、起床後の薬を飲んでから 30 分〜2 時間 が動きやすい時間帯です。

ご自分のオン・オフのリズムを観察し、最も体が動きやすい 30〜60 分を「自主トレタイム」に固定してください。

朝食前 or 朝食後の薬を飲んでから 30 分後 → 30 分のメニュー、というのが定番パターンです。


7.6 「大きく・強く・速く」 — LSVT BIG の3原則

パーキンソン病の運動には、ひとつの大きな特徴があります。

それは、「自分が思っているより、動きが小さくなっている」 ということです。[10]

本人は「普通に手を上げた」つもりでも、傍から見ると 30〜40% くらいしか上がっていない。これは、脳の「動きの大きさを認識する装置」がズレているためで、本人のせいではありません。

そこで運動するときは、

  • 大きく(BIG) — 普段の 1.5 倍くらい大きく動かすつもりで
  • 強く(STRONG) — 「もう少しだけ力を入れて」と意識する
  • 速く(FAST) — ダラダラではなく、リズムを保って

を意識してください。

これは、LSVT BIG という、パーキンソン病に特化したリハビリ手法の中核となる考え方です。LSVT BIG は無作為化比較試験で運動機能の改善が報告されています。[10](第 4 章で詳しく扱いました)


7.7 【レベル別】メニュー早見表

ヤール重症度別に、おすすめのメニューを表で整理します。

ヤール寝たまま座って立って有酸素
ウォーキング・サイクリング
ウォーキング(キュー併用)
◯(支え必須)エルゴメーター・水中歩行
△(理学療法士同伴)エルゴメーター(座位)
◯(介助)×パッシブ運動(関節可動域)

(◎: 推奨 / ◯: 可 / △: 条件付き / ×: 推奨しない)

以降で各メニューを詳しく説明します。


7.8 【レベル1】寝たままメニュー(ヤールⅠ〜Ⅴ全員に推奨)

寝た状態で行うので 安全性が最も高く、固縮(筋肉のこわばり)をほぐすのに最適です。 朝起きたとき・夜寝る前の習慣にすると続きやすい。

① バンザイ・ストレッチ(深呼吸付き)

固まったお腹と胸の筋肉を伸ばす。呼吸を深くする効果も。

手順:

  1. 仰向けで寝る、両膝は立てる
  2. 両手をまっすぐ頭の上に伸ばす(できる範囲で大きく)
  3. 鼻からゆっくり 4 秒で息を吸いながら手を伸ばす
  4. 口からゆっくり 6 秒で息を吐きながら手を下ろす
  5. 10 回繰り返す

ポイント: 痛みのない範囲で。腰が反りすぎないように、お腹をへこませる意識で。

② 膝倒し(腰回りのストレッチ)

固まりやすい腰回りと骨盤をほぐす。寝返りがしやすくなる効果も。

手順:

  1. 仰向け、両膝を立てる
  2. 両膝を揃えたまま、左右にゆっくりパタンパタンと倒す
  3. 左右 10 回ずつ

ポイント: 上半身は床から離さない。

③ お尻上げ(ブリッジ)

歩くために必須の お尻の筋肉(大殿筋)体幹 を鍛える。最重要メニュー。

手順:

  1. 仰向け、両膝を立てる、両手は体の横
  2. お尻を天井に向けて持ち上げる(膝〜肩が一直線になるくらい)
  3. 3 秒キープ
  4. ゆっくり下ろす
  5. 10 回繰り返す

ポイント: 「お尻に力が入っている」感覚を大切に。

④ 足首パンプ

ふくらはぎのポンプ機能で血流改善 + 起立性低血圧予防。

手順:

  1. 仰向け、両足を伸ばす
  2. 両足首を、つま先を天井に向ける ⇄ つま先を遠くに伸ばす
  3. ゆっくり 20 回繰り返す

⑤ 寝返り練習

進行期の方には特に大事。

手順:

  1. 仰向けから、頭・両膝を倒したい側に向ける
  2. 倒したい側と反対の手を、倒したい方向に大きく振る
  3. その勢いで体を回転させる
  4. 反対側も同様に

ポイント: 一気に回ろうとせず、頭→腕→腰の順で「分けて」回るのがコツ。


7.9 【レベル2】座ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅳ)

転倒のリスクが少なく、テレビを見ながらでもできる。背もたれに寄りかからず、少し浅く座って 行いましょう。

① 足踏みマーチ

すくみ足の予防に直結。歩行のリズムを脳に覚えさせる。

手順:

  1. 椅子の前方に浅く座る
  2. 太ももを高く上げて(膝が腰の高さまで)、足踏み
  3. いち、に、いち、に」と声を出してリズムをとる
  4. 30 秒〜1 分

ポイント: 腕も同時に振る。「大きく」を意識。

② 膝伸ばし(キック)

歩く力に直結する 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋) を鍛える。

手順:

  1. 椅子に浅く座る
  2. 片足ずつ、膝をまっすぐ伸ばしてつま先を天井に向ける
  3. 3 秒キープ
  4. ゆっくり下ろす
  5. 左右 10 回ずつ

ポイント: つま先までしっかり伸ばす。

③ 体幹ひねり

パーキンソン病で苦手になる 回旋(ひねる動き) を引き出す。歩行時の腕振りがスムーズに。

手順:

  1. 椅子に浅く座る、胸の前で手を組む
  2. 体を左右に大きくひねる
  3. 大きく、ゆっくり」を意識
  4. 左右 10 回ずつ

④ 椅子立ち上がり(スクワット代替)

スクワットが難しい方の太もも・お尻トレ。

手順:

  1. 椅子の前方に浅く座る
  2. 立ち上がる → 座る を繰り返す
  3. 10 回

ポイント: 背もたれに寄りかからず、自分の力で。机や肘掛けに手を添えてもOK。

⑤ 座位エルゴメーター

座って自転車漕ぎができる小型エルゴメーター(数千円〜)があると、有酸素運動として最適。

  • 1 回 20〜30 分
  • 「ちょっとキツい」(RPE 5〜6)
  • 週 3〜5 回

7.10 【レベル3】立ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅲ)

家事の合間や調子が良いときに。実践的な歩く力をつける。

安全のために

必ず机や椅子の背もたれなど、「すぐに掴まれるもの」のそばで行ってください。
ヤールⅢ以上の方や転倒経験のある方は、家族の見守りまたは理学療法士の指導のもとで。

① ハーフスクワット

立ち座り動作 + 歩行に必須。

手順:

  1. 机に手をつき、足を肩幅に開く
  2. 椅子に座るイメージで、お尻を後ろに引きながら膝を曲げる
  3. 太ももが床と平行になる手前で止まる(深くは曲げない)
  4. ゆっくり立ち上がる
  5. 10 回

ポイント: 膝が爪先より前に出ない。お尻を後ろに突き出す意識。

② かかと上げ(カーフレイズ)

ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)を鍛え、地面を蹴る力を強くする。バランス能力も向上。

手順:

  1. 机に手をつき、両足を腰幅に
  2. かかとを上げて、つま先立ちに
  3. ゆっくり下ろす
  4. 10 回

ポイント: 「ふくらはぎが収縮する」感覚を意識。

③ つま先上げ

すくみ足の方が苦手な つま先を上げる動き を強化。すり足の予防に。

手順:

  1. 机に手をつき、立つ
  2. つま先を天井に向けるように上げる(かかとは床)
  3. ゆっくり下ろす
  4. 10 回

④ アキレス腱伸ばし(ふくらはぎストレッチ)

前傾姿勢の方は ふくらはぎが縮んでいる ことが多い。これだけで姿勢が良くなることも。

手順:

  1. 壁に手をつき、片足を後ろに引く
  2. 後ろ足のかかとを床につけたまま、前足を曲げる
  3. 後ろのふくらはぎが伸びる感覚で 30 秒キープ
  4. 左右

⑤ 横歩き

側方への重心移動を学ぶ。歩行の安定性向上。

手順:

  1. 壁に手をつき、足を肩幅
  2. 右に 5 歩 → 左に 5 歩
  3. 5 往復

7.11 有酸素運動の選び方

最低でも 週 150 分の中等度有酸素運動 が国際的な目安です。[6]

ヤール別おすすめ

Ⅰ〜Ⅱ度

  • ウォーキング — 1 日 30 分、週 5 回。歩幅大きく、腕を振って
  • サイクリング(屋外) — 体を支える必要がない分、すくみ足が出にくい
  • 水中ウォーキング・水泳 — 浮力で関節への負担が少ない

Ⅲ度

  • エルゴメーター(自転車漕ぎ) — 室内で安全。スポーツジム or 自宅用
  • キュー併用ウォーキング — メトロノームを聞きながら、または家族と「いち、に」と声を出しながら
  • 水中歩行 — 転倒リスクが低い

Ⅳ度

  • 座位エルゴメーター — 座ったまま漕ぐタイプ
  • 手のエルゴメーター(ハンドサイクル) — 上肢の有酸素運動

Ⅴ度

  • 関節可動域運動(理学療法士・家族による補助)

強度のコツ

  • 中等度: RPE 5〜6 / 心拍数 60〜70%
  • ちょっとキツい: RPE 6〜7 / 心拍数 70〜80%
  • 会話はできるけど、歌うのは難しい」が中等度の感覚

7.12 ダンス・太極拳・ヨガという選択肢

「決まったメニューを毎日」は退屈で続かない、という方へ。

ダンス(タンゴ・社交ダンスなど)

メタ分析で、運動・認知・QOL の改善が報告されています。[5]

  • 音楽のリズム → 聴覚キュー効果
  • ステップ → 視覚キュー効果
  • パートナーとの動き → 楽しさ・社交性
  • 重心移動 → バランス訓練

「Dance for PD」など、パーキンソン病向けのダンス教室も世界中にあります。

太極拳

無作為化試験で バランス改善・転倒予防 の効果が報告されています。[11]

  • ゆっくりした動きで、関節への負担が少ない
  • 重心移動と片足立ちが多い
  • 呼吸と動きを合わせるので、リラックス効果も

ヨガ

柔軟性・バランス・呼吸の改善に。

  • ヤールⅠ〜Ⅲ向け
  • 「シニアヨガ」「椅子ヨガ」もあり、進行期にも対応可能

7.13 続けるための7つのコツ

「メニューはわかった。でも続かない」 — これがいちばんの壁です。

行動科学の知見も踏まえた、続けるためのコツを 7 つ。

① 「0 にしない」がすべて

完璧な日もあれば、雨で気分が落ちる日もあります。

「今日は寝たまま深呼吸だけ」 — それで OK。0 にしない、これだけで続いている扱い

② 既存の習慣にくっつける

「朝の歯磨きの後にストレッチ」「夕食後にエルゴメーター」など、すでに毎日やっていることに「ついで」で組み込む。新しい習慣は、既存習慣の波に乗せると定着します。[12]

③ 記録をつける

カレンダーに「○」をつけるだけで OK。

  • 「3 日連続でできた」が見える喜び
  • 「最近サボってる」が見える緊張感
  • 主治医・理学療法士に見せられる客観データ

「シール手帳」「アプリ」「家族にメッセージ」など、自分が楽しめる方法で。

④ 仲間を持つ

一人だとサボる。これは人間として自然なことです。

  • オンラインで一緒に運動できる場
  • 同じ病気の方のコミュニティ
  • 家族と一緒にやる
  • 動画を見ながらカウントを合わせる

人がいる」状況を作るだけで、続く確率が大きく上がります。

⑤ 小さく始める

「30 分やる」と決めると、忙しい日に挫折します。

最低 5 分」にしておく。 時間があれば 30 分やる、忙しい日は 5 分で OK。

「やった/やらなかった」のスイッチを 5 分 に設定するのがコツ。

⑥ 「楽しさ」を最優先

苦行は続きません。

  • 好きな音楽をかけながら
  • 好きな番組を見ながらエルゴメーター
  • 季節の景色を楽しめる散歩コース
  • 友達と話しながら

やりたい」と思える要素を意識的に組み込む。

⑦ 完璧主義を捨てる

「フォームが違う」「回数が足りない」と気にしすぎると続きません。

80 点で OK。続けることが 100 点。


7.14 やってはいけないこと(運動禁忌・中止サイン)

安全のために、知っておきたいことを最後にまとめます。

運動を中止して受診すべきサイン

  • 胸の痛み・締め付け
  • 強い動悸・息切れ
  • めまい・冷や汗
  • 急な意識の朦朧
  • 強い頭痛
  • 関節の急な強い痛み

これらが出たら、すぐ運動を中止し、医療機関へ

運動を控えるべきタイミング

  • 体調が悪い日(発熱・強い倦怠感)
  • 急にオフ状態が長引いているとき(主治医に薬の相談を)
  • 起立性低血圧でめまいがしているとき
  • 食後 30 分以内(消化への配慮)
  • 入浴の直前直後(血圧変動)

主治医・理学療法士に確認すべきこと

以下に該当する方は、運動を始める前に必ず相談 を:

  • 心疾患・狭心症の既往
  • コントロール不良の高血圧
  • 重度の骨粗鬆症
  • 関節の手術歴(人工関節など)
  • DBS の手術直後
  • ヤール Ⅳ 以上

7.15 「貯筋」を実感するための記録法

最後に、貯筋を続けるための「見える化」の方法を 1 つ。

月 1 回のミニテスト

毎月 1 日に、以下の 3 つを測定。

① 椅子立ち上がりテスト(30 秒)

  • 椅子に座って、30 秒間で何回立ち上がれるか
  • 健康な高齢者の目安は 8〜15 回
  • 同じ条件(椅子の高さ・腕の使い方)で測る

② 片足立ち時間

  • 何かにつかまらず、何秒立てるか
  • 片足ずつ。最大 60 秒で打ち切り

③ 10m 歩行時間

  • 10m 歩く時間を測る(できれば家の中の安全な場所で)
  • スタートとゴールを決めて、ストップウォッチで

グラフにする

これらを月単位でグラフ化すれば、

  • 続けている自分を客観的に確認できる
  • 主治医・理学療法士への報告材料になる
  • 「悪化のサイン」も早期に気づける

「貯筋」は通帳と同じ。残高を可視化 すると、続ける動機になります。


第7章のまとめ

  • 週 1 回のリハビリだけでは足りない — 毎日の「貯筋」が鍵
  • 運動は神経可塑性 + BDNF 分泌で 脳に効く治療
  • 中等度以上の有酸素運動で 症状の進行を遅らせる可能性(Schenkman 2018 RCT)
  • 4 つの運動要素(有酸素・筋トレ・ストレッチ・バランス)を組み合わせる
  • 強度は RPE 5〜6(会話できるが歌は難しい)
  • オン状態(薬が効いている時間) に行うのが鉄則
  • 「大きく・強く・速く」 の 3 原則(LSVT BIG の考え方)
  • ヤール別の 寝たまま・座って・立って メニュー
  • ダンス・太極拳・ヨガも有効な選択肢
  • 続けるコツ: 0 にしない・習慣に重ねる・記録・仲間・小さく・楽しく・完璧主義を捨てる
  • 胸痛・強い動悸・めまいは 即中止 のサイン
  • 月 1 回の ミニテストで貯筋を可視化

参考文献

[1] Petzinger GM, Fisher BE, McEwen S, et al. Exercise-enhanced neuroplasticity targeting motor and cognitive circuitry in Parkinson's disease. Lancet Neurology. 2013;12(7):716-726. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23769598/

[2] Hirsch MA, Iyer SS, Sanjak M. Exercise-Induced Neuroplasticity in Parkinson's Disease: A Metasynthesis of the Literature. Neural Plasticity. 2018;2018:2748131. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7079218/

[3] Małczyńska-Sims P, Chalimoniuk M, Sułek A. The Effect of Endurance Training on Brain-Derived Neurotrophic Factor and Inflammatory Markers in Healthy People and Parkinson's Disease. Frontiers in Physiology. 2020;11:578981. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7711132/

[4] Schenkman M, Moore CG, Kohrt WM, et al. Effect of High-Intensity Treadmill Exercise on Motor Symptoms in Patients With De Novo Parkinson Disease: A Phase 2 Randomized Clinical Trial. JAMA Neurology. 2018;75(2):219-226. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29228079/ (中等度〜高強度の有酸素運動が早期パーキンソン病の運動症状進行を抑制した代表的 RCT)

[5] Karpodini CC, Dinas PC, Angelopoulou E, et al. Rhythmic cueing, dance, resistance training, and Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neurology. 2022;13:875178. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9413961/

[6] Mak MK, Wong-Yu IS, Shen X, Chung CL. Long-term effects of exercise and physical therapy in people with Parkinson disease. Nature Reviews Neurology. 2017;13(11):689-703. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29027544/

[7] Bouça-Machado R, Rosário A, Caldeira D, et al. Physical activity, exercise, and physiotherapy in Parkinson's disease: defining the concepts. Movement Disorders Clinical Practice. 2019;7(1):7-15. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31970205/

[8] Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Medicine & Science in Sports & Exercise. 1982;14(5):377-381. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7154893/

[9] 日本神経学会. パーキンソン病診療ガイドライン 2018(リハビリテーションの項). https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html

[10] Ebersbach G, Ebersbach A, Edler D, et al. Comparing exercise in Parkinson's disease — the Berlin LSVT®BIG study. Movement Disorders. 2010;25(12):1902-1908. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20669294/

[11] Li F, Harmer P, Fitzgerald K, et al. Tai chi and postural stability in patients with Parkinson's disease. New England Journal of Medicine. 2012;366(6):511-519. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22316445/

[12] Lally P, Van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology. 2010;40(6):998-1009.

[13] 日本理学療法士協会 リガクラボ. パーキンソン病と上手に付き合う - 運動と転倒予防のポイント. 2025. https://rigakulab.jp/2025/04/16/id000284/

医療免責

本章の内容は一般的な解説であり、個別の診断や治療方針の代替ではありません。

  • 強い痛み・動悸・めまいが出たら、即運動を中止し医療機関へ
  • ヤールⅣ〜Ⅴの方や転倒リスクが高い方は、必ず理学療法士の指導のもとで運動してください
  • 心疾患・コントロール不良の高血圧・重度骨粗鬆症などの方は、運動開始前に主治医にご相談を
  • 持病の薬(β遮断薬など)で心拍数の評価が異なる場合があります

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7.1 「スタジオに通っているから大丈夫」という落とし穴7.2 運動はなぜ効くのか — 脳に何が起きるか① 神経可塑性を引き出す② BDNF(脳由来神経栄養因子)を分泌させる③ 大規模 RCT が示すエビデンス④ ダンス・太極拳・水中運動も有効7.3 4つの運動を組み合わせる7.4 運動の強度をどう測るか自覚的運動強度(RPE)で判断する心拍数で判断する7.5 運動は「オン状態」に行うのが鉄則なぜオン状態がいいのかおすすめのタイミング7.6 「大きく・強く・速く」 — LSVT BIG の3原則7.7 【レベル別】メニュー早見表7.8 【レベル1】寝たままメニュー(ヤールⅠ〜Ⅴ全員に推奨)① バンザイ・ストレッチ(深呼吸付き)② 膝倒し(腰回りのストレッチ)③ お尻上げ(ブリッジ)④ 足首パンプ⑤ 寝返り練習7.9 【レベル2】座ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅳ)① 足踏みマーチ② 膝伸ばし(キック)③ 体幹ひねり④ 椅子立ち上がり(スクワット代替)⑤ 座位エルゴメーター7.10 【レベル3】立ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅲ)① ハーフスクワット② かかと上げ(カーフレイズ)③ つま先上げ④ アキレス腱伸ばし(ふくらはぎストレッチ)⑤ 横歩き7.11 有酸素運動の選び方ヤール別おすすめⅠ〜Ⅱ度Ⅲ度Ⅳ度Ⅴ度強度のコツ7.12 ダンス・太極拳・ヨガという選択肢ダンス(タンゴ・社交ダンスなど)太極拳ヨガ7.13 続けるための7つのコツ① 「0 にしない」がすべて② 既存の習慣にくっつける③ 記録をつける④ 仲間を持つ⑤ 小さく始める⑥ 「楽しさ」を最優先⑦ 完璧主義を捨てる7.14 やってはいけないこと(運動禁忌・中止サイン)運動を中止して受診すべきサイン運動を控えるべきタイミング主治医・理学療法士に確認すべきこと7.15 「貯筋」を実感するための記録法月 1 回のミニテスト① 椅子立ち上がりテスト(30 秒)② 片足立ち時間③ 10m 歩行時間グラフにする第7章のまとめ参考文献