第7章 自宅でできる自主トレ
科学的根拠に基づく、レベル別運動メニューと続けるためのコツ
この章のねらい
週1回のリハビリだけでは、動ける体は守れません。
科学的根拠のある運動の種類・強度・頻度を整理し、ヤール別のメニューと、続けるための工夫まで網羅します。
「何を、どれくらい、どうやって」が全部わかる章を目指しました。
7.1 「スタジオに通っているから大丈夫」という落とし穴
「週に 1 回、リハビリに通っているから安心」
「先生にマッサージしてもらえば良くなる」
もしそう思っているなら、少し厳しいことをお伝えしなければなりません。
週に 1 回のリハビリだけでは、パーキンソン病の進行に勝つことは難しい のが現実です。
1 週間は 168 時間あります。そのうちの 1 時間、スタジオでどれだけ素晴らしいリハビリをしたとしても、残りの 167 時間を家でじっと座って過ごしていたら、体は元の状態に戻ってしまいます。
リハビリは、毎日コツコツ積み立てる 「貯筋(ちょきん)」 のようなものです。ドカンと一括で入金することはできません。
ここでは、「何を、どれくらい、どうやって」が全部わかるように、自宅でできる自主トレをまとめます。
7.2 運動はなぜ効くのか — 脳に何が起きるか
「運動した方がいい」とは聞くけれど、なぜ? 答えを知っておくと、続ける動機になります。
① 神経可塑性を引き出す
第 4 章で扱ったように、脳には 神経可塑性 — 新しい回路を作り直す力 — があります。[1]
運動はこの力を引き出す最も強い刺激の一つで、運動が脳の構造・機能にポジティブな変化をもたらしうることが、複数の研究で示唆されています。[1][2]
② BDNF(脳由来神経栄養因子)を分泌させる
中等度以上の有酸素運動を行うと、脳内で BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor) という物質の分泌が増えることが報告されています。[3]
BDNF は「脳の栄養因子」とも呼ばれ、神経細胞を保護し、新しいシナプスの形成を促す働きがあります。
ただし、軽すぎる運動では BDNF は十分に分泌されません。「ちょっとキツい」と感じる強度がポイントです。
③ 大規模 RCT が示すエビデンス
Schenkman et al. (2018, JAMA Neurology) の RCT では、診断早期のパーキンソン病患者を対象に、
- 高強度トレッドミル運動群(最大心拍数の 80〜85%)
- 中等度群(60〜65%)
- 通常ケア群
の 3 群を比較。6 か月後、高強度群では運動症状の悪化が有意に抑制 されました。[4]
この結果は、「中等度以上の有酸素運動は、症状の進行を遅らせる可能性がある」という強い示唆を与えています。
④ ダンス・太極拳・水中運動も有効
近年のメタ分析では、ダンス・太極拳・水中運動・サイクリングなどが、運動機能・バランス・QOL の改善に寄与することが報告されています。[5][6]
「自分が楽しくて続けられるもの」を選ぶのが、長続きの最大の秘訣です。
覚えてほしいこと
運動は「保健体操」ではなく「治療」です。
やる種類と強度を選べば、進行を遅らせる可能性のある「薬」と並ぶ武器になります。
7.3 4つの運動を組み合わせる
米国スポーツ医学会・パーキンソン病財団は、4 つの運動要素を組み合わせる ことを推奨しています。[6][7]
| 運動の種類 | 目的 | 例 | 推奨頻度 |
|---|---|---|---|
| ① 有酸素運動 | 心肺機能・BDNF分泌 | ウォーキング、エルゴメーター、水中運動 | 週 3〜5 回 / 1 回 30 分 |
| ② 筋力トレーニング(レジスタンス) | 筋肉量維持・転倒予防 | スクワット、チューブ運動 | 週 2〜3 回 |
| ③ 柔軟性(ストレッチ) | 固縮の緩和、関節可動域 | 全身ストレッチ、ヨガ | 毎日 |
| ④ バランス・協調性 | 転倒予防、姿勢制御 | 片足立ち、太極拳、ダンス | 週 2〜3 回 |
「全部をきっちり」と考えると挫折します。
最低でも、有酸素運動とストレッチは毎日、可能ならそこに筋トレ・バランスを足す。それで十分です。
7.4 運動の強度をどう測るか
「中等度以上が良い」と言われても、ピンと来ないですよね。
シンプルな目安をお伝えします。
自覚的運動強度(RPE)で判断する
ボルグ・スケール(修正版 0〜10) という、自分の感覚で運動強度を測る方法があります。[8]
| スケール | 感覚 | パーキンソン病の運動目安 |
|---|---|---|
| 0 | 安静 | — |
| 1〜2 | とても楽 | ウォーミングアップ |
| 3〜4 | 楽 | ストレッチ |
| 5〜6 | ちょっとキツい | 有酸素運動の理想ゾーン |
| 7〜8 | キツい | 高強度トレーニング |
| 9〜10 | 限界 | 避ける |
「会話はできるけど、歌うのは難しい」 くらいの息のあがり方が、5〜6 の感覚です。
心拍数で判断する
心拍数で測るなら、最大心拍数の 60〜85% が目安です。
- 簡易最大心拍数 = 220 − 年齢
- 例: 65 歳の方なら 220 − 65 = 155 が最大値、その 60〜85% = 93〜132 拍/分 が目標
スマートウォッチなどで測れる方は、これを参考にしてください。
ただし、β遮断薬 など心拍数を抑える薬を飲んでいる方は、心拍数では正確に測れません。RPE で判断してください。
7.5 運動は「オン状態」に行うのが鉄則
自主トレの タイミング は、薬が効いていて体が動きやすい時間帯(オン状態)に行うのが原則です。[9]
なぜオン状態がいいのか
- 転倒のリスクが低い
- 動きが大きく取れる(リハビリの質が上がる)
- 「動けた」という成功体験が脳に刻まれる(神経可塑性に有利)
オフ状態(薬が切れている時間)に無理に動こうとすると:
- 筋肉を痛めるリスク
- 転倒のリスク
- 「辛い」「動かない」という嫌な記憶が脳に刻まれる
これは 「悪い学習」 を脳にさせてしまうことにもなります。
おすすめのタイミング
多くの方で、起床後の薬を飲んでから 30 分〜2 時間 が動きやすい時間帯です。
ご自分のオン・オフのリズムを観察し、最も体が動きやすい 30〜60 分を「自主トレタイム」に固定してください。
朝食前 or 朝食後の薬を飲んでから 30 分後 → 30 分のメニュー、というのが定番パターンです。
7.6 「大きく・強く・速く」 — LSVT BIG の3原則
パーキンソン病の運動には、ひとつの大きな特徴があります。
それは、「自分が思っているより、動きが小さくなっている」 ということです。[10]
本人は「普通に手を上げた」つもりでも、傍から見ると 30〜40% くらいしか上がっていない。これは、脳の「動きの大きさを認識する装置」がズレているためで、本人のせいではありません。
そこで運動するときは、
- 大きく(BIG) — 普段の 1.5 倍くらい大きく動かすつもりで
- 強く(STRONG) — 「もう少しだけ力を入れて」と意識する
- 速く(FAST) — ダラダラではなく、リズムを保って
を意識してください。
これは、LSVT BIG という、パーキンソン病に特化したリハビリ手法の中核となる考え方です。LSVT BIG は無作為化比較試験で運動機能の改善が報告されています。[10](第 4 章で詳しく扱いました)
7.7 【レベル別】メニュー早見表
ヤール重症度別に、おすすめのメニューを表で整理します。
| ヤール | 寝たまま | 座って | 立って | 有酸素 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ | ◎ | ◎ | ◎ | ウォーキング・サイクリング |
| Ⅱ | ◎ | ◎ | ◎ | ウォーキング(キュー併用) |
| Ⅲ | ◎ | ◎ | ◯(支え必須) | エルゴメーター・水中歩行 |
| Ⅳ | ◎ | ◎ | △(理学療法士同伴) | エルゴメーター(座位) |
| Ⅴ | ◎ | ◯(介助) | × | パッシブ運動(関節可動域) |
(◎: 推奨 / ◯: 可 / △: 条件付き / ×: 推奨しない)
以降で各メニューを詳しく説明します。
7.8 【レベル1】寝たままメニュー(ヤールⅠ〜Ⅴ全員に推奨)
寝た状態で行うので 安全性が最も高く、固縮(筋肉のこわばり)をほぐすのに最適です。 朝起きたとき・夜寝る前の習慣にすると続きやすい。
① バンザイ・ストレッチ(深呼吸付き)
固まったお腹と胸の筋肉を伸ばす。呼吸を深くする効果も。
手順:
- 仰向けで寝る、両膝は立てる
- 両手をまっすぐ頭の上に伸ばす(できる範囲で大きく)
- 鼻からゆっくり 4 秒で息を吸いながら手を伸ばす
- 口からゆっくり 6 秒で息を吐きながら手を下ろす
- 10 回繰り返す
ポイント: 痛みのない範囲で。腰が反りすぎないように、お腹をへこませる意識で。
② 膝倒し(腰回りのストレッチ)
固まりやすい腰回りと骨盤をほぐす。寝返りがしやすくなる効果も。
手順:
- 仰向け、両膝を立てる
- 両膝を揃えたまま、左右にゆっくりパタンパタンと倒す
- 左右 10 回ずつ
ポイント: 上半身は床から離さない。
③ お尻上げ(ブリッジ)
歩くために必須の お尻の筋肉(大殿筋) と 体幹 を鍛える。最重要メニュー。
手順:
- 仰向け、両膝を立てる、両手は体の横
- お尻を天井に向けて持ち上げる(膝〜肩が一直線になるくらい)
- 3 秒キープ
- ゆっくり下ろす
- 10 回繰り返す
ポイント: 「お尻に力が入っている」感覚を大切に。
④ 足首パンプ
ふくらはぎのポンプ機能で血流改善 + 起立性低血圧予防。
手順:
- 仰向け、両足を伸ばす
- 両足首を、つま先を天井に向ける ⇄ つま先を遠くに伸ばす
- ゆっくり 20 回繰り返す
⑤ 寝返り練習
進行期の方には特に大事。
手順:
- 仰向けから、頭・両膝を倒したい側に向ける
- 倒したい側と反対の手を、倒したい方向に大きく振る
- その勢いで体を回転させる
- 反対側も同様に
ポイント: 一気に回ろうとせず、頭→腕→腰の順で「分けて」回るのがコツ。
7.9 【レベル2】座ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅳ)
転倒のリスクが少なく、テレビを見ながらでもできる。背もたれに寄りかからず、少し浅く座って 行いましょう。
① 足踏みマーチ
すくみ足の予防に直結。歩行のリズムを脳に覚えさせる。
手順:
- 椅子の前方に浅く座る
- 太ももを高く上げて(膝が腰の高さまで)、足踏み
- 「いち、に、いち、に」と声を出してリズムをとる
- 30 秒〜1 分
ポイント: 腕も同時に振る。「大きく」を意識。
② 膝伸ばし(キック)
歩く力に直結する 太ももの前の筋肉(大腿四頭筋) を鍛える。
手順:
- 椅子に浅く座る
- 片足ずつ、膝をまっすぐ伸ばしてつま先を天井に向ける
- 3 秒キープ
- ゆっくり下ろす
- 左右 10 回ずつ
ポイント: つま先までしっかり伸ばす。
③ 体幹ひねり
パーキンソン病で苦手になる 回旋(ひねる動き) を引き出す。歩行時の腕振りがスムーズに。
手順:
- 椅子に浅く座る、胸の前で手を組む
- 体を左右に大きくひねる
- 「大きく、ゆっくり」を意識
- 左右 10 回ずつ
④ 椅子立ち上がり(スクワット代替)
スクワットが難しい方の太もも・お尻トレ。
手順:
- 椅子の前方に浅く座る
- 立ち上がる → 座る を繰り返す
- 10 回
ポイント: 背もたれに寄りかからず、自分の力で。机や肘掛けに手を添えてもOK。
⑤ 座位エルゴメーター
座って自転車漕ぎができる小型エルゴメーター(数千円〜)があると、有酸素運動として最適。
- 1 回 20〜30 分
- 「ちょっとキツい」(RPE 5〜6)
- 週 3〜5 回
7.10 【レベル3】立ってメニュー(ヤールⅠ〜Ⅲ)
家事の合間や調子が良いときに。実践的な歩く力をつける。
安全のために
必ず机や椅子の背もたれなど、「すぐに掴まれるもの」のそばで行ってください。
ヤールⅢ以上の方や転倒経験のある方は、家族の見守りまたは理学療法士の指導のもとで。
① ハーフスクワット
立ち座り動作 + 歩行に必須。
手順:
- 机に手をつき、足を肩幅に開く
- 椅子に座るイメージで、お尻を後ろに引きながら膝を曲げる
- 太ももが床と平行になる手前で止まる(深くは曲げない)
- ゆっくり立ち上がる
- 10 回
ポイント: 膝が爪先より前に出ない。お尻を後ろに突き出す意識。
② かかと上げ(カーフレイズ)
ふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)を鍛え、地面を蹴る力を強くする。バランス能力も向上。
手順:
- 机に手をつき、両足を腰幅に
- かかとを上げて、つま先立ちに
- ゆっくり下ろす
- 10 回
ポイント: 「ふくらはぎが収縮する」感覚を意識。
③ つま先上げ
すくみ足の方が苦手な つま先を上げる動き を強化。すり足の予防に。
手順:
- 机に手をつき、立つ
- つま先を天井に向けるように上げる(かかとは床)
- ゆっくり下ろす
- 10 回
④ アキレス腱伸ばし(ふくらはぎストレッチ)
前傾姿勢の方は ふくらはぎが縮んでいる ことが多い。これだけで姿勢が良くなることも。
手順:
- 壁に手をつき、片足を後ろに引く
- 後ろ足のかかとを床につけたまま、前足を曲げる
- 後ろのふくらはぎが伸びる感覚で 30 秒キープ
- 左右
⑤ 横歩き
側方への重心移動を学ぶ。歩行の安定性向上。
手順:
- 壁に手をつき、足を肩幅
- 右に 5 歩 → 左に 5 歩
- 5 往復
7.11 有酸素運動の選び方
最低でも 週 150 分の中等度有酸素運動 が国際的な目安です。[6]
ヤール別おすすめ
Ⅰ〜Ⅱ度
- ウォーキング — 1 日 30 分、週 5 回。歩幅大きく、腕を振って
- サイクリング(屋外) — 体を支える必要がない分、すくみ足が出にくい
- 水中ウォーキング・水泳 — 浮力で関節への負担が少ない
Ⅲ度
- エルゴメーター(自転車漕ぎ) — 室内で安全。スポーツジム or 自宅用
- キュー併用ウォーキング — メトロノームを聞きながら、または家族と「いち、に」と声を出しながら
- 水中歩行 — 転倒リスクが低い
Ⅳ度
- 座位エルゴメーター — 座ったまま漕ぐタイプ
- 手のエルゴメーター(ハンドサイクル) — 上肢の有酸素運動
Ⅴ度
- 関節可動域運動(理学療法士・家族による補助)
強度のコツ
- 中等度: RPE 5〜6 / 心拍数 60〜70%
- ちょっとキツい: RPE 6〜7 / 心拍数 70〜80%
- 「会話はできるけど、歌うのは難しい」が中等度の感覚
7.12 ダンス・太極拳・ヨガという選択肢
「決まったメニューを毎日」は退屈で続かない、という方へ。
ダンス(タンゴ・社交ダンスなど)
メタ分析で、運動・認知・QOL の改善が報告されています。[5]
- 音楽のリズム → 聴覚キュー効果
- ステップ → 視覚キュー効果
- パートナーとの動き → 楽しさ・社交性
- 重心移動 → バランス訓練
「Dance for PD」など、パーキンソン病向けのダンス教室も世界中にあります。
太極拳
無作為化試験で バランス改善・転倒予防 の効果が報告されています。[11]
- ゆっくりした動きで、関節への負担が少ない
- 重心移動と片足立ちが多い
- 呼吸と動きを合わせるので、リラックス効果も
ヨガ
柔軟性・バランス・呼吸の改善に。
- ヤールⅠ〜Ⅲ向け
- 「シニアヨガ」「椅子ヨガ」もあり、進行期にも対応可能
7.13 続けるための7つのコツ
「メニューはわかった。でも続かない」 — これがいちばんの壁です。
行動科学の知見も踏まえた、続けるためのコツを 7 つ。
① 「0 にしない」がすべて
完璧な日もあれば、雨で気分が落ちる日もあります。
「今日は寝たまま深呼吸だけ」 — それで OK。0 にしない、これだけで続いている扱い。
② 既存の習慣にくっつける
「朝の歯磨きの後にストレッチ」「夕食後にエルゴメーター」など、すでに毎日やっていることに「ついで」で組み込む。新しい習慣は、既存習慣の波に乗せると定着します。[12]
③ 記録をつける
カレンダーに「○」をつけるだけで OK。
- 「3 日連続でできた」が見える喜び
- 「最近サボってる」が見える緊張感
- 主治医・理学療法士に見せられる客観データ
「シール手帳」「アプリ」「家族にメッセージ」など、自分が楽しめる方法で。
④ 仲間を持つ
一人だとサボる。これは人間として自然なことです。
- オンラインで一緒に運動できる場
- 同じ病気の方のコミュニティ
- 家族と一緒にやる
- 動画を見ながらカウントを合わせる
「人がいる」状況を作るだけで、続く確率が大きく上がります。
⑤ 小さく始める
「30 分やる」と決めると、忙しい日に挫折します。
「最低 5 分」にしておく。 時間があれば 30 分やる、忙しい日は 5 分で OK。
「やった/やらなかった」のスイッチを 5 分 に設定するのがコツ。
⑥ 「楽しさ」を最優先
苦行は続きません。
- 好きな音楽をかけながら
- 好きな番組を見ながらエルゴメーター
- 季節の景色を楽しめる散歩コース
- 友達と話しながら
「やりたい」と思える要素を意識的に組み込む。
⑦ 完璧主義を捨てる
「フォームが違う」「回数が足りない」と気にしすぎると続きません。
80 点で OK。続けることが 100 点。
7.14 やってはいけないこと(運動禁忌・中止サイン)
安全のために、知っておきたいことを最後にまとめます。
運動を中止して受診すべきサイン
- 胸の痛み・締め付け
- 強い動悸・息切れ
- めまい・冷や汗
- 急な意識の朦朧
- 強い頭痛
- 関節の急な強い痛み
これらが出たら、すぐ運動を中止し、医療機関へ。
運動を控えるべきタイミング
- 体調が悪い日(発熱・強い倦怠感)
- 急にオフ状態が長引いているとき(主治医に薬の相談を)
- 起立性低血圧でめまいがしているとき
- 食後 30 分以内(消化への配慮)
- 入浴の直前直後(血圧変動)
主治医・理学療法士に確認すべきこと
以下に該当する方は、運動を始める前に必ず相談 を:
- 心疾患・狭心症の既往
- コントロール不良の高血圧
- 重度の骨粗鬆症
- 関節の手術歴(人工関節など)
- DBS の手術直後
- ヤール Ⅳ 以上
7.15 「貯筋」を実感するための記録法
最後に、貯筋を続けるための「見える化」の方法を 1 つ。
月 1 回のミニテスト
毎月 1 日に、以下の 3 つを測定。
① 椅子立ち上がりテスト(30 秒)
- 椅子に座って、30 秒間で何回立ち上がれるか
- 健康な高齢者の目安は 8〜15 回
- 同じ条件(椅子の高さ・腕の使い方)で測る
② 片足立ち時間
- 何かにつかまらず、何秒立てるか
- 片足ずつ。最大 60 秒で打ち切り
③ 10m 歩行時間
- 10m 歩く時間を測る(できれば家の中の安全な場所で)
- スタートとゴールを決めて、ストップウォッチで
グラフにする
これらを月単位でグラフ化すれば、
- 続けている自分を客観的に確認できる
- 主治医・理学療法士への報告材料になる
- 「悪化のサイン」も早期に気づける
「貯筋」は通帳と同じ。残高を可視化 すると、続ける動機になります。
第7章のまとめ
- 週 1 回のリハビリだけでは足りない — 毎日の「貯筋」が鍵
- 運動は神経可塑性 + BDNF 分泌で 脳に効く治療
- 中等度以上の有酸素運動で 症状の進行を遅らせる可能性(Schenkman 2018 RCT)
- 4 つの運動要素(有酸素・筋トレ・ストレッチ・バランス)を組み合わせる
- 強度は RPE 5〜6(会話できるが歌は難しい)
- オン状態(薬が効いている時間) に行うのが鉄則
- 「大きく・強く・速く」 の 3 原則(LSVT BIG の考え方)
- ヤール別の 寝たまま・座って・立って メニュー
- ダンス・太極拳・ヨガも有効な選択肢
- 続けるコツ: 0 にしない・習慣に重ねる・記録・仲間・小さく・楽しく・完璧主義を捨てる
- 胸痛・強い動悸・めまいは 即中止 のサイン
- 月 1 回の ミニテストで貯筋を可視化
参考文献
[1] Petzinger GM, Fisher BE, McEwen S, et al. Exercise-enhanced neuroplasticity targeting motor and cognitive circuitry in Parkinson's disease. Lancet Neurology. 2013;12(7):716-726. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23769598/
[2] Hirsch MA, Iyer SS, Sanjak M. Exercise-Induced Neuroplasticity in Parkinson's Disease: A Metasynthesis of the Literature. Neural Plasticity. 2018;2018:2748131. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7079218/
[3] Małczyńska-Sims P, Chalimoniuk M, Sułek A. The Effect of Endurance Training on Brain-Derived Neurotrophic Factor and Inflammatory Markers in Healthy People and Parkinson's Disease. Frontiers in Physiology. 2020;11:578981. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7711132/
[4] Schenkman M, Moore CG, Kohrt WM, et al. Effect of High-Intensity Treadmill Exercise on Motor Symptoms in Patients With De Novo Parkinson Disease: A Phase 2 Randomized Clinical Trial. JAMA Neurology. 2018;75(2):219-226. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29228079/ (中等度〜高強度の有酸素運動が早期パーキンソン病の運動症状進行を抑制した代表的 RCT)
[5] Karpodini CC, Dinas PC, Angelopoulou E, et al. Rhythmic cueing, dance, resistance training, and Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neurology. 2022;13:875178. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9413961/
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[9] 日本神経学会. パーキンソン病診療ガイドライン 2018(リハビリテーションの項). https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html
[10] Ebersbach G, Ebersbach A, Edler D, et al. Comparing exercise in Parkinson's disease — the Berlin LSVT®BIG study. Movement Disorders. 2010;25(12):1902-1908. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20669294/
[11] Li F, Harmer P, Fitzgerald K, et al. Tai chi and postural stability in patients with Parkinson's disease. New England Journal of Medicine. 2012;366(6):511-519. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22316445/
[12] Lally P, Van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology. 2010;40(6):998-1009.
[13] 日本理学療法士協会 リガクラボ. パーキンソン病と上手に付き合う - 運動と転倒予防のポイント. 2025. https://rigakulab.jp/2025/04/16/id000284/
医療免責
本章の内容は一般的な解説であり、個別の診断や治療方針の代替ではありません。
- 強い痛み・動悸・めまいが出たら、即運動を中止し医療機関へ
- ヤールⅣ〜Ⅴの方や転倒リスクが高い方は、必ず理学療法士の指導のもとで運動してください
- 心疾患・コントロール不良の高血圧・重度骨粗鬆症などの方は、運動開始前に主治医にご相談を
- 持病の薬(β遮断薬など)で心拍数の評価が異なる場合があります
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