パーキンソン病の教科書
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第9章 非運動症状を知る

自律神経・睡眠・認知・気分・痛みなど、見えにくい症状の正体と対処

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こんな方に: 便秘・睡眠・気分の悩みを抱える方
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この章のねらい

パーキンソン病は「運動の病気」と思われがちですが、実は便秘・睡眠・気分・認知などの「見えない症状」も生活の質を大きく左右します。
それぞれの症状の正体と対策を整理します。
この章で扱う症状の多くは、運動症状とは別に主治医・専門医に相談すべき ものです。「年のせい」「仕方ない」と諦めないでください。

9.1 「運動症状だけ」じゃない

パーキンソン病というと、震えや歩きにくさといった 運動症状 が思い浮かびますよね。

しかし近年の研究で、運動症状以外の 非運動症状(non-motor symptoms, NMS) が、生活の質を大きく左右することがわかってきました。[1]

  • 便秘・頻尿・起立性低血圧などの 自律神経症状
  • 不眠・REM 睡眠行動障害などの 睡眠の問題
  • におい がわからなくなる 嗅覚障害
  • 物忘れなどの 認知機能の低下
  • うつ・不安・アパシーなどの 精神症状
  • 幻視・妄想などの 精神病症状
  • 痛み・疲労・体温調節の異常
  • 視覚嚥下 の問題

驚くべきことに、これらの非運動症状は 運動症状が出る何年も前から始まっている ことがあります(前駆期症状)。[2]

つまり、便秘や嗅覚低下、夢を見て暴れるなどに何年も悩んでいた方が、後にパーキンソン病と診断されるケースは珍しくありません。

逆に言えば、診断後に非運動症状が出てきても「自分の体が次々におかしくなっていく」と恐れる必要はありません。多くの方が経験する、典型的な経過の一部 です。理解して、適切に対処することで、生活の質は大きく改善します。

NMS が QOL に与える影響

複数の研究で、運動症状の重症度よりも、非運動症状の総数のほうが、患者さんの生活の質(QOL)に強く影響する ことが示されています。[1] 言いかえれば、振戦が少し残っても気分が安定して眠れる方の方が、振戦は治まったが慢性疼痛と不眠に悩む方より、毎日が過ごしやすいことがあります。

だからこそ、運動症状の改善ばかりに目を向けず、非運動症状にも同じくらい関心を払うことが大事です。


9.2 前駆期と「Braak 仮説」 — なぜ非運動症状が先に出るのか

「運動症状が出る前から非運動症状が始まる」 現象には、神経病理学的な根拠があります。

ドイツの神経病理学者 Heiko Braak らは、パーキンソン病の本体である α-シヌクレインというタンパク質の蓄積 が、脳の特定の場所からはじまり、年単位で広がっていくと提唱しました(Braak 仮説)。[2]

Braak ステージ(おおまかな順序)

  1. 延髄(迷走神経背側核)・嗅球 — 自律神経症状(便秘)・嗅覚低下が出始める
  2. 橋(青斑核・縫線核) — REM 睡眠行動障害・うつ・睡眠障害
  3. 中脳(黒質)ここで運動症状が出始める(診断のタイミング)
  4. 大脳辺縁系 — 認知機能や気分の変化
  5. 大脳新皮質 — 認知症・精神症状

つまり、運動症状が出る頃には、すでに数年〜十数年単位で病理が進んでいる状態です。逆に 嗅覚低下・便秘・RBD は「PD のごく早期サイン」 として国際的に注目されています。[2]

ただし、嗅覚低下や便秘がある人が皆 PD になるわけではありません。これらはあくまで PD のリスク因子 であり、診断基準ではありません。一般の人がスクリーニングのために検査する必要は通常ありません。

国際運動障害学会(MDS)は「prodromal PD criteria(前駆期 PD 診断基準)」を発表しており、研究目的で前駆期を同定する取り組みが進んでいます。[2]


9.3 自律神経症状

自律神経は、消化・循環・体温調節・発汗・排尿など、無意識に体をコントロールする神経です。パーキンソン病では、この自律神経も影響を受けます。[1]

便秘

最も多い症状で、患者さんの 8 割以上 に見られると報告されています。[3]

起こる仕組み

  • 腸壁の自律神経(腸管神経叢)に α-シヌクレインが蓄積し、腸の動き(蠕動運動)が遅くなる
  • 抗パーキンソン病薬の一部(抗コリン薬・アマンタジン)も便秘を強める
  • 水分摂取不足、運動不足が重なる

なぜ重要か

便秘は単に不快なだけでなく、

  • L-ドパの吸収が遅れる(便が溜まると胃排出も低下)
  • 痔・脱肛・腸閉塞のリスク
  • 食欲低下・食事量低下
  • 自律神経全体の不調と関連
  • ご本人の精神的ストレス

つながり、運動症状にも間接的影響します。

対策

  • 水分補給 — 1 日 1.2〜1.5L(ただし心臓・腎臓疾患のある方は主治医に相談)
  • 食物繊維 — 水溶性(海藻・オクラ・納豆・キウイ・りんご)+不溶性(ごぼう・きのこ)
  • 適度な運動 — 歩行・体操・腹部マッサージ(おへその周りを「の」の字)
  • 規則正しい排便習慣 — 朝食後など、決まった時間にトイレへ
  • 下剤 — 酸化マグネシウム(マグミット)、ポリエチレングリコール製剤(モビコール)、ルビプロストン(アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)、エロビキシバット(グーフィス)など
  • 市販の刺激性下剤の連用は避ける — 大腸メラノーシス・耐性のリスク

詳しくは第8章を参照。

起立性低血圧

立ち上がったときに血圧が下がり、めまい・ふらつき・意識消失が出る症状。

診断基準(目安)

  • 起立 3 分以内に 収縮期血圧が 20 mmHg 以上、または拡張期血圧が 10 mmHg 以上低下

注意点

  • 朝起きたとき、椅子から立ち上がったとき、入浴後、食後に出やすい
  • 転倒・骨折の重大原因
  • パーキンソン病では「仰臥位(寝た姿勢)では血圧が高い」という併存パターン(supine hypertension)も多く、降圧薬の調整が複雑になる

対策

  • 急に立ち上がらない(ベッドの縁に座る → 30 秒待つ → ゆっくり立つ)
  • 弾性ストッキング または 腹部バンド の着用
  • 食事の塩分を 減らしすぎない(医師の指示の範囲で)
  • 水分摂取(立ち上がる前にコップ 1 杯の水でも改善することがある)
  • 頭高位(ベッドの頭側を 10〜30 度上げる) で寝る → 朝の起立性低血圧が緩和することも
  • カフェイン入りコーヒーを朝食時に
  • 主治医に相談 — ドロキシドパ(ドプス)・ミドドリン(メトリジン) などの処方薬で改善することも

排尿障害

頻尿・尿意切迫感・夜間頻尿・尿失禁・残尿感など、多彩な症状が出ます。

主な型

  • 過活動膀胱(蓄尿障害) — 我慢できない強い尿意、夜間頻尿。最多
  • 排出障害 — 残尿感、出にくい
  • 夜間多尿 — 夜中だけ尿量が多い

対策

  • 自己判断の水分制限はしない(脱水で起立性低血圧が悪化)
  • 夕方以降の水分・カフェイン・アルコールを控えめに
  • 夜間頻尿で転倒のリスクが高い方はポータブルトイレや尿器の利用も検討
  • 専門は 泌尿器科。内科・神経内科だけでなく泌尿器科への紹介を主治医に依頼
  • 過活動膀胱の薬(抗コリン作動性、β3 作動薬など)— 抗コリン薬は認知機能への影響に注意

発汗の異常

汗が多すぎる(多汗)、または少なすぎる(無汗)。

  • 「オフ時の発汗」 が典型 — 薬が切れる時間帯に異常発汗
  • 夜間・上半身に多い
  • 無汗側(片側)の場合は熱中症・うつ熱のリスク

対策

  • 服装の調整(重ね着で温度コントロール)
  • 室温管理(夏季は冷房を躊躇しない)
  • 急な発汗が薬の影響(オフ症状)の場合は服薬の見直しを主治医と相談

体温調節の異常

体温調節そのものが苦手になる方も。[1]

  • 熱中症リスクが高い — 夏季は特に注意
  • 冬は寒さに弱い(末梢血管調節の低下)
  • 「暑い・寒い」の感覚が鈍ることもある

家族が 室温・湿度・水分を客観的にチェック する役割が重要です。

性機能の問題

話題にしにくい領域ですが、QOL に影響します。

  • 男性: 勃起障害(ED)、射精障害
  • 女性: 性欲低下、潤いの低下
  • 性欲亢進 — 一部の方に出る。ドパミンアゴニストの副作用(衝動制御障害, ICD) であることが多く、薬の見直しで改善する
  • 主治医に相談しにくい場合は、泌尿器科・婦人科 の専門医に

流涎(よだれ)

嚥下の回数・効率が落ち、口の中の唾液を飲み込めず溢れる症状(唾液量自体は増えていないことが多い)。第8章でも触れます。

  • 姿勢前傾・口を開けて過ごす癖が悪化要因
  • 抗コリン外用薬の口腔内塗布
  • 唾液腺へのボツリヌス毒素注射(専門医療機関)
  • 食事中の意識的な嚥下練習

9.4 睡眠の問題

パーキンソン病の方の 約 7〜9 割 が、何らかの睡眠の問題を抱えるとされています。[4]

REM 睡眠行動障害(RBD)

夢を見ながら大声を出したり、手足を激しく動かしたりする症状。[4]

メカニズム

通常、夢を見ているとき(REM 睡眠中)は 筋肉の緊張が落ちて体が動かない仕組み(REM atonia)があります。RBD ではこの仕組みが壊れ、夢の内容に合わせて体が動いてしまいます。

臨床的意味

  • 健常者で RBD と診断された方の 長期追跡で約 80% がパーキンソン病・レビー小体型認知症・多系統萎縮症などの α-シヌクレイン病に発展した という報告があります[4]
  • パーキンソン病の 何年も前から出現 することもある(前駆症状)
  • 既に PD と診断された方では、相当割合で RBD が併存

程度

  • 軽度: 寝言・小さな手足の動き
  • 中等度: 大声・腕の振り回し・蹴り
  • 重度: ベッドから落ちる・パートナーを叩く・物を壊す

対策

  • 寝室の安全確保が最優先:
    • ベッド柵
    • ベッド脇の床にマットや布団
    • ナイトテーブルから硬い物・尖った物を撤去
    • パートナーは別ベッドや別室を検討
    • 窓辺・階段近くを避ける
  • 主治医に相談 → 必要なら薬物治療(クロナゼパム、メラトニン)[4]
  • 睡眠検査(終夜睡眠ポリグラフ)で正式診断する施設もある

不眠

寝つきが悪い・夜中に何度も起きる・早朝に目覚める。

原因の整理

  • 夜間の薬切れ(オフ症状で寝返りが打てない、痛い、こわばる)
  • 夜間頻尿
  • RBD・むずむず脚症候群
  • 不安・うつ症状
  • 薬の副作用(セレギリン、アマンタジン、L-ドパ — 不眠を起こすことがある)
  • 昼寝のしすぎ
  • 加齢に伴う通常の睡眠変化

対策

  • 規則正しい生活リズム(起床時刻を一定に)
  • 朝の光を浴びる
  • 寝る前のスマホ・テレビを控える(ブルーライト)
  • カフェイン・アルコールを夕方以降控える
  • 寝室の温度・湿度を整える
  • 必要なら主治医に相談(夜間の薬の調整、貼付剤の併用、睡眠薬の検討)
  • 一般的なベンゾジアゼピン睡眠薬は 転倒リスク・夜間せん妄リスク で慎重に
  • メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント)が選択肢に

睡眠衛生のチェックリスト

  • 起床時刻を一定に(休日も)
  • 起床後すぐに 朝の光 を浴びる(15〜30 分)
  • 日中に身体を動かす(運動は就寝 3 時間前までに)
  • 寝る 1 時間前から照明を落とす
  • 寝る 30 分前からスマホ・タブレットを離す
  • カフェイン: 午後 2 時以降は控える
  • アルコール: 就寝 3 時間前まで、量は控えめ
  • 寝室は 暗く・静か・涼しく
  • ベッドは「眠る場所」として使う(読書・スマホは別場所で)
  • 眠れないときは無理に寝ようとせず、一度ベッドを出る
  • 昼寝は 15〜30 分まで、午後 3 時までに

日中の過度な眠気(EDS)・突発睡眠

突発睡眠

突然意識が落ちる「突発睡眠」は、特に ドパミンアゴニストの副作用 として知られます。[5]

  • 運転中に出ると重大事故のリスク
  • 突発睡眠が出る方は 車の運転は禁止 されることがあります
  • 主治医に相談して薬の見直しを

日中過眠

  • 夜の睡眠不足が原因のことも多い
  • 短い昼寝(15〜30 分)は許容、長すぎる昼寝は夜の睡眠を妨げる
  • 慢性的な眠気が続くなら主治医に相談

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

PD の方は SAS の有病率がやや高い可能性があります。

  • いびき・無呼吸・日中の強い眠気がある方は、睡眠検査(ポリソムノグラフィ)を検討
  • CPAP(持続陽圧呼吸療法)で治療可能

むずむず脚症候群(RLS)・周期性四肢運動障害(PLMS)

  • むずむず脚: 夕方〜夜にかけて、足を動かしたい衝動が止まらない
  • 周期性四肢運動: 睡眠中に周期的に足が動く(本人は無自覚、パートナーが気づく)
  • ドパミン作動薬や鉄剤で改善することがある(鉄欠乏性貧血のチェックを)

9.5 嗅覚障害

パーキンソン病の方の 9 割近く に嗅覚の低下が見られると報告されています。[6]

メカニズム

嗅覚を司る 嗅球(鼻の奥にある神経の中継地) には、PD のごく早期から α-シヌクレインが蓄積します(Braak ステージ 1)。このため嗅覚低下は PD の前駆症状の代表格 です。[2][6]

症状

  • 「料理の匂いがしない」
  • 「香水・コーヒー・お線香の香りがわからない」
  • 「ガス漏れに気づかない」(安全面で重要)
  • 嗅覚と味覚は密接に関連するため、味も淡く感じる ことが多い → 食事の楽しみが減る → 食欲低下

対策

  • 完全に治す方法はまだない
  • 嗅覚トレーニング — 4 種類(バラ・レモン・ユーカリ・クローブが研究で使われた)を毎日嗅ぐ訓練を 3 ヶ月以上続けると、改善する可能性があるという報告[6]
  • 食事の工夫:
    • 食感(コリコリ・もちもち)を活かす
    • 温度差(冷たい / 温かい)
    • 色彩豊かな盛り付け
    • 出汁・薬味(ねぎ・しょうが・ゆず・大葉)で風味を補う
    • 食べる場所・人との会話で楽しさを足す
  • 安全対策:
    • ガス警報器・火災警報器を必ず設置
    • 食材の傷み・腐敗は 見た目・賞味期限・他の人 で確認

直接の治療法は限られますが、知っておくことで「なぜ食事が美味しく感じないのか」を理解する助けになります。


9.6 認知機能の変化

すべての方に出るわけではありませんが、長期経過の中で物忘れや判断力の低下が出る方もいます。[7]

PD の認知機能変化の特徴

アルツハイマー型認知症と異なり、PD では:

  • 注意力・遂行機能(段取りを立てる力) から低下しやすい
  • 視空間認知(図形のコピー・道に迷う)
  • 言語想起(「あれ、あれ」が増える)
  • 記憶(エピソード記憶)の低下は比較的後から
  • 波動性(調子の良い時と悪い時の差が大きい)
  • 幻視を伴う ことがある

軽度認知障害(MCI)

  • 物忘れや段取り力の低下があるが、日常生活には大きな支障はない段階
  • パーキンソン病の方の 約 25〜30% にみられるとする報告も[7]
  • 進行すれば PDD に移行する可能性

パーキンソン病認知症(PDD)

  • 認知機能の低下が 日常生活に支障する 状態
  • 注意力・遂行機能(段取り)から低下することが多い
  • 幻視(見えないものが見える)を伴うことがある
  • PD 発症から 平均 10 年程度 で発症する方が一定割合いるという報告[7]

レビー小体型認知症(DLB)との違い

レビー小体型認知症もパーキンソン症状を伴いますが、発症の順序 で区別します。

  • DLB: 認知症が先 or ほぼ同時(運動症状発現から 1 年以内に認知症)
  • PDD: 運動症状が先で、後年(1 年以上後)に認知症が加わる

病理的には連続したスペクトラムと考えられています。

スクリーニング検査

主治医が認知機能を評価する際に使う簡易テスト:

  • MMSE(Mini-Mental State Examination)— 30 点満点。23 点以下で認知症疑い
  • MoCA(Montreal Cognitive Assessment)— PD の MCI 検出に MMSE より感度が高いとされる
  • 時計描画テスト

「認知症」という診断ラベルにこだわるより、自分の認知機能の変化を主治医と一緒にモニタリング することが重要です。

治療

  • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 — ドネペジル(アリセプト)、リバスチグミン(イクセロンパッチ)が PDD に保険適用[7]
  • メマンチン(メマリー)も使われることがある(中等度〜高度)
  • 抗コリン薬・三環系抗うつ薬 は認知機能を悪化させる可能性 → 服薬リストを主治医にチェックしてもらう
  • 早めに主治医に相談を

進行を緩やかにする生活習慣

エビデンスはまだ確立段階ですが、以下が推奨されています。

  • 有酸素運動(週 150 分目安)
  • 十分な睡眠(6〜8 時間)
  • 社会的交流(家族・友人・地域)
  • 知的活動(読書・パズル・趣味・新しい学び)
  • 生活習慣病の管理(高血圧・糖尿病・脂質異常)
  • 禁煙・節酒

家族のコミュニケーションの工夫

認知機能が低下してきた方とのコミュニケーションには、いくつかのコツがあります。

  • 短く・ゆっくり・はっきり 話す
  • 一度に一つの話題 に絞る
  • 質問は「はい / いいえ」で答えられる形に
  • 急かさない(返答に時間がかかる)
  • 否定せず、責めない
  • 視線を合わせて、表情豊かに
  • 大きな環境変化(引っ越し・入院)は混乱を招くため事前準備を
  • 日付・時間・場所のリマインドを部屋に置く(カレンダー・時計)
  • 写真や馴染みのある物で安心感を作る

「認知症」という言葉には恐怖がつきものですが、早期に気づいて対策をとれば、進行を遅らせられる可能性 があります。隠さずに主治医に相談してください。


9.7 精神症状(うつ・不安・アパシー)

非運動症状の中でも特に見落とされやすく、しかし 本人と家族の苦しみが大きい のが精神症状です。[1]

うつ症状

PD の方の 約 30〜40% に何らかのうつ症状があるとする報告があります。[1]

  • 「気分が沈む」「楽しめない」「何もする気がしない」
  • 不眠・食欲低下を伴う
  • PD の脳変化そのものがうつを起こす こともあり、性格や状況の問題ではない
  • 運動症状とも相互作用(うつだと運動意欲が落ちる → 運動不足 → 症状悪化 → さらに気分低下…)

対策

  • 主治医・心療内科に相談を躊躇しない
  • SSRI・SNRI が使われる(MAO-B 阻害薬との相互作用に注意)
  • 三環系は抗コリン作用で慎重に
  • 認知行動療法(CBT)などの精神療法も有効
  • 運動療法は 抗うつ効果のエビデンス あり

不安

  • 漠然とした不安
  • 外出への恐怖(転倒不安・人目が気になる)
  • パニック発作(オフ時に強まることも)
  • うつと併存することが多い

対策

  • 認知行動療法
  • 必要なら抗不安薬(漸減を意識して使用)
  • 信頼できる支援者・家族会の存在
  • 「不安は症状の一部」と知るだけで楽になることも

アパシー(無関心・意欲低下)

  • うつとは異なる症状
  • 悲しい気持ちはないが、何もする気が起きない
  • 「怠けている」「気力がない」と誤解されやすい
  • 家族からは「性格が変わった」と感じられる
  • PD の脳変化(前頭葉-線条体回路の機能低下)が関与

対策

  • これも 本人の意志の問題ではなく、症状である という理解が出発点
  • スケジュール化(やることを時間で決める)
  • 一緒にやってくれる人の存在
  • L-ドパや DA アゴニストの最適化で改善することも

衝動制御障害(ICD)

第3章でも触れましたが、ここで再度。

  • 病的賭博・買い物依存・過食・性欲亢進 など
  • ほぼ全て ドパミンアゴニストの副作用
  • 本人は自覚しにくい、または恥ずかしくて言えない
  • 家族の観察と主治医への報告が重要

感情調節不全(情動失禁)

  • ちょっとしたことで涙が出る、笑いが止まらない
  • うつとは別の症状
  • 一部の方に出現

「自分は怠けているのでは」と責めない

精神症状は 本人の意志の弱さでも性格でもなく、PD の症状の一つ です。「気合が足りない」「もっと頑張らないと」と自分を責めることは、症状の悪化を招きます。

医療の力を借りる、家族の理解を求める、休む勇気を持つ — これらは弱さではなく、症状と賢く付き合う姿勢です。


9.8 幻覚・妄想

進行期になると、幻視(見えないものが見える) が現れることがあります。[1]

幻視

  • 「部屋の隅に小さな子どもが見える」
  • 「亡くなった家族がそこにいる」
  • 「動物(犬・猫・虫)が動いている」
  • 「天井から人が降りてくる」
  • 薄暗い時間帯・夕方〜夜 に出やすい
  • 多くの場合、幻覚に対する病識が保たれている(「本物ではないとわかっている」)時期がある

パサージュ現象・サイドビジョン

幻視の前段階のような症状。

  • パサージュ現象: 視野の周辺で誰かが通り過ぎたように感じる(振り返ると誰もいない)
  • 存在感現象(プレゼンス現象): 部屋に誰かがいる気配を感じる
  • これらが進むと幻視へ移行することがある

妄想

  • 盗害妄想(物を盗まれたと思い込む)
  • 嫉妬妄想(配偶者が浮気していると確信する)
  • 被害妄想

原因

  • 抗パーキンソン病薬(特に DA アゴニスト・抗コリン薬・アマンタジン)の副作用
  • 認知機能の低下
  • レビー小体病理の影響
  • 感染症(尿路感染症・肺炎)で急激に出現することも → 発熱があったら救急性も検討

対策

  • 主治医に必ず伝える(本人が言いにくければ家族から)
  • 抗パーキンソン病薬の調整(原因薬を順に減量検討: 抗コリン薬 → アマンタジン → DA アゴニスト → MAO-B/COMT → L-ドパ の順)
  • 環境調整(明るさを保つ、寝室の整理)
  • 認知症治療薬(ドネペジルなど)が改善させることも
  • 必要なら 抗精神病薬(クエチアピンを低用量で off-label) を主治医が選択
  • 一般的な抗精神病薬(ハロペリドール等)は PD 症状を悪化させるため禁忌

「変なことを言うようになった」と一人で抱え込まないでください。幻視は症状の一つ で、対応できることが多いです。


9.9 痛み

パーキンソン病の方の 半数以上 が痛みを経験するとされています。[8]

痛みの種類

① 筋骨格系の痛み

  • 肩こり・腰痛・首の痛み
  • 姿勢の崩れや動きの少なさが原因
  • 片側の肩こり が PD の初期症状として有名

② ジストニアによる痛み

  • 筋肉が異常に収縮し、足や手がねじれる・固まる
  • 早朝や薬切れ時の足のジストニア(足の指が反り返る・足がねじれる)が典型
  • L-ドパが切れている時間に出やすい

③ 中枢性の痛み

  • 脳から発生する原因不明の痛み
  • 灼熱感・刺すような痛み・しびれ感
  • 通常の鎮痛薬が効きにくい

④ 神経根性の痛み

  • PD と直接関係なく、頚椎症・腰椎症などが併存していることも

⑤ アカシジア(座っていられない)

  • 足のむずむず・じっとしていられない感覚

対策

  • 痛みのタイミングを記録(オフ時? オン時? 朝・夜? 動作後?)
  • リハビリ・ストレッチ・温熱
  • 姿勢の改善(第6章を参照)
  • ジストニアの痛みは 抗パーキンソン病薬の調整 で改善することが多い
  • 中枢性の痛みは デュロキセチン・ガバペンチン などが試されることも
  • 通常の鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)で効くこともある
  • ボツリヌス毒素注射(ジストニアに対して)
  • 場合によっては ペインクリニック への相談

「年のせい」「気のせい」と諦める前に、主治医に相談してください。


9.10 疲労

「常に疲れている」「動き出す気力がない」— これも PD の重要な症状です。[1]

中枢性疲労

  • 体は動かないわけではないが、精神的な疲れ感 が強い
  • 睡眠で回復しにくい
  • うつ・アパシーと重なることも

末梢性疲労

  • 動作が遅く効率が悪いため、日常動作が筋肉的に疲れる
  • 一日の終わりに動けなくなる

対策

  • 「疲れたら休む」のサイクルを罪悪感なく 取り入れる
  • 1 日の活動を オン時間に集中させる(第3章 3.11 参照)
  • 短い昼休憩(15〜30 分)
  • 適度な運動(矛盾するようだが、むしろ運動が疲労を軽減することがある)
  • うつや睡眠障害が背景にないかチェック
  • 主治医に相談 — メチルフェニデートなどの覚醒系薬剤が使われることはあるが慎重判断

エネルギー管理の考え方(ペーシング)

慢性疾患のリハビリで使われる「ペーシング」という考え方が役立ちます。

  • 1 日の エネルギー量は有限 と捉える
  • 「やれる時に全部やる → 翌日寝込む」を避ける
  • 活動と休息を計画的に交互に 配置する(例: 30 分活動 → 10 分休息)
  • 「明日のために今日 7 割で止める」勇気
  • 重要な予定は オン時間 に集中
  • 譲れる家事は譲る(家族・宅配・家事代行・ヘルパー)
  • 罪悪感の手放し — 休むことも治療の一部

「100% で動く日と寝込む日」のジグザグから、「70% で安定する日々」への移行が目標です。


9.11 視覚の問題

PD では視覚にも様々な変化が起きます。

瞬きの減少 → ドライアイ

  • 瞬きの回数が減る(健康な人の半分以下のことも)
  • ドライアイ(目の乾き・かすみ・ゴロゴロ感)
  • 人工涙液(市販でも可)で対処
  • 眼科で診察を

コントラスト感度の低下

  • 「白い背景に白い物」が見えにくい
  • 段差・縁石が見えにくい → 転倒リスク
  • 照明を明るく、コントラストの高い色使いを

複視(ものが二重に見える)

  • 眼球運動の調整不全
  • 一時的なら様子見、続くなら眼科へ

視空間認知の低下

  • 道に迷う、駐車に苦労する
  • 認知機能変化の一部

眼科受診のすすめ

  • 視覚症状は 眼科 が専門
  • 「PD の薬を飲んでいる」と必ず伝える(緑内障の薬の中に PD 症状を悪化させるものがある)
  • 定期検査で白内障・緑内障の併存もチェック
  • 高齢者は 加齢性黄斑変性・白内障・緑内障 の併存頻度が高い
  • 視覚低下は 転倒・うつ・認知機能低下 とも関連 → 軽視せず

家庭でできる視環境の工夫

  • 階段・段差に コントラストの強いテープ(黒い階段に黄色テープなど)
  • 廊下・トイレ・寝室の 足元灯
  • 玄関・洗面所の照明を明るく
  • 食器と食べ物の 色の対比(白いごはんは色のついた茶碗に)
  • 床と家具の色のコントラスト
  • スマホ・テレビの文字サイズを大きく
  • 拡大鏡・ルーペの活用
  • メガネの度数定期点検
  • 夜間の暗い廊下を避け、人感センサー付きライトを設置
  • 文字を読むときは間接照明より直接照明で手元の陰影を減らす(LEDが最適)

9.12 嚥下の問題

詳しくは第8章で扱いますが、重要なので再掲。

  • 嚥下機能の低下は 誤嚥性肺炎 の最大リスク
  • むせる・食事に時間がかかる・体重減少 → 早めに耳鼻科 or 摂食嚥下リハの専門医へ
  • 嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE)で詳細評価可能
  • 言語聴覚士(ST)による嚥下リハ

9.13 自分の症状をチェックする

「この一週間で、こんな症状はありましたか?」を自分でチェックすることで、主治医に伝えやすくなります。

NMS の自己評価ツール

国際的に使われる質問票:

  • NMSS(Non-Motor Symptoms Scale) — 医師が評価
  • NMSQuest(NMS Questionnaire) — 患者さんが自己記入する 30 問の質問票
  • ご家族との対話のきっかけにもなる

簡易セルフチェック(主な NMS 30 項目の例)

主治医の前で「特になし」と答えがちな項目です。該当する項目を診察前に書き出しておく だけでも、診療の質が上がります。

  • 唾液がたくさん出る
  • 飲み込みにくい
  • 食欲が落ちた
  • 便秘
  • 排尿の問題(頻尿・尿漏れ)
  • 立ちくらみ
  • 倒れた・転んだ
  • 集中力が続かない
  • 物忘れ
  • 何か見える(幻視)
  • 妄想がある
  • 気分が沈む
  • 不安が強い
  • 興味がなくなる(アパシー)
  • 性欲の変化
  • 手足のむくみ
  • 異常な発汗
  • 二重に見える
  • いつも疲れている
  • 寝つきが悪い・夜中に起きる
  • 日中眠い
  • 夢を見て暴れる
  • 足のむずむず
  • 痛みがある
  • 体重が減った
  • 香りがわからない
  • 味がしない

いつから・どれくらいの頻度・どれくらい困っているか」をメモすると、より正確に伝わります。

主治医に伝えるコツ

非運動症状は「自分から言わないと医師に伝わらない」ことが多くあります。診察時間は限られているため、事前に書き出しておく家族と一緒に診察に行くスマホのメモを見せる などの工夫が有効です。「先生から聞かれなかったから言わなかった」がいちばん勿体ないパターンです。


9.14 家族・介護者の方へ

非運動症状の多くは、ご本人より家族の方が気づきやすい ものがあります。

家族の役割

  • 観察と記録 — 行動・言動の変化、睡眠中の様子、夜間頻尿の回数、気分の変化
  • 主治医への代弁 — 本人が言いにくいこと、自覚しにくいことを伝える
  • 環境調整 — 室温、照明、寝室の安全、危険物の管理
  • 生活リズムの支え — 規則正しい起床・食事・服薬

特に医師に伝えてほしいこと

  • 行動の変化(ギャンブル・買い物・過食 = ICD のサイン)
  • 夜間の異常行動(RBD・夜間せん妄)
  • 昼間の異常な眠気
  • 幻視・妄想を口にすること
  • 転倒の有無と回数
  • 性格や対人関係の変化

家族自身のケア

  • 介護を一人で抱え込まない
  • 介護保険サービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイ)の活用
  • 家族会・患者会(全国パーキンソン病友の会など)に参加
  • 自分の睡眠・健康・趣味の時間を確保
  • 困ったら 医療ソーシャルワーカー(MSW)・ケアマネージャー に相談

「介護者が倒れたら、本人のケアも止まる」— 自分のケアは贅沢ではなく、長く支えるための必須事項です。


9.15 よくある Q&A

Q1. 便秘がひどいのですが、市販の下剤を毎日飲んでもよい?

A. 刺激性下剤(センナ、大黄、ピコスルファートなど)の連用は避けてください。耐性ができて自然な便意が遠のきます。まずは水分・食物繊維・運動・腹部マッサージで改善を試み、それでも厳しければ主治医に相談を。酸化マグネシウム・ポリエチレングリコール製剤 は比較的安全に長期使用できますが、それでも医師の管理下で。便秘自体が L-ドパの吸収を妨げ、運動症状を悪化させるため、放置は禁物です。

Q2. 朝、立ち上がるとフラつきます。これは血圧の薬が必要?

A. 起立性低血圧の典型症状です。まずは 生活指導(ゆっくり立つ・弾性ストッキング・頭高位睡眠・水分補給)を試し、それでもフラつきが続く・転倒があるなら主治医に相談。ドロキシドパ・ミドドリン などの処方薬で改善することがあります。注意点として、PD では「寝た状態では血圧が高い」併存もあり、一般の降圧薬の調整は専門医と連携が必要です。

Q3. 夢を見て夜中に暴れます。配偶者を叩いてしまうことも

A. REM 睡眠行動障害(RBD) の典型症状です。まず 寝室の安全確保(ベッド柵、床マット、危険物撤去)を最優先で。配偶者は別ベッド・別室を検討してください。主治医に相談すれば クロナゼパム・メラトニン で改善することが多くあります。決して「寝相が悪いだけ」と片付けず、早めに相談を。

Q4. 嗅覚がほとんどありません。回復しますか?

A. 残念ながら、現時点で完全に回復させる治療法は確立していません。[6] ただし 嗅覚トレーニング(4 種類の匂いを毎日嗅ぐ、3 ヶ月以上)で一部改善する可能性があります。日常生活では ガス警報器・火災警報器の設置、食材の傷みを家族と確認、食事の楽しみを 食感・色・温度・出汁・薬味 で補うのが現実的な対策です。

Q5. 物忘れが増えてきました。認知症ですか?

A. 物忘れだけでは認知症とは断定できません。主治医に相談し、MMSE や MoCA などの簡易検査 を受けてみてください。PD で出やすいのは「注意力・段取りを立てる力・視空間認知」の低下で、エピソード記憶は比較的保たれます。早期に気づいてドネペジルなどの薬を始めれば、進行を緩やかにできる可能性 があります。隠さずに相談することが大事です。

Q6. 父が「亡くなった母が部屋にいる」と言います。どう対応すれば?

A. 幻視 の症状です。否定して言い争うと本人が孤立し、肯定すると認識を強める可能性があり、対応が難しい症状です。基本は:

  • 穏やかに「私には見えないけれど、お父さんには見えるんだね」と受け止める
  • 急に部屋を暗くしない・薄暗い時間に注意
  • 必ず主治医に伝える — 抗パーキンソン病薬の見直し、認知症治療薬の追加、必要なら抗精神病薬の検討で改善することが多い
  • 急激に幻視が増えた場合は 感染症(尿路感染症・肺炎) の可能性もあり救急性も検討

Q7. 気分が落ち込みます。「弱い人間だ」と自分を責めてしまう

A. PD のうつは脳の変化が原因の症状であり、性格や意志の問題ではありません[1] 「気合で治す」は逆効果です。主治医・心療内科に相談し、必要なら SSRI など抗うつ薬認知行動療法 を活用してください。運動療法にも抗うつ効果のエビデンス があるため、無理のない範囲での運動も助けになります。

Q8. 父がギャンブル・買い物にのめり込むようになりました

A. 衝動制御障害(ICD) の可能性が高いです。ほぼ ドパミンアゴニストの副作用 で、本人は自覚しにくいことがほとんど。速やかに主治医に伝えてください — 薬の変更で改善することが多くあります。家計に重大な影響が出る前の早期対応が鍵です。恥ずかしがらず、責めずに、「症状」として医療側に相談してください。

Q9. 全身の痛みが強く、鎮痛薬が効きません

A. PD の痛みには複数の種類があります。痛みのタイミング・性質を記録 して主治医に相談してください。

  • オフ時の痛み・朝のジストニア → 抗パーキンソン病薬の調整で改善
  • 筋骨格系の痛み → リハビリ・ストレッチ・姿勢改善
  • 中枢性の痛み → デュロキセチン・ガバペンチンなどが試される
  • 神経痛・頚椎症併存 → ペインクリニック紹介

「年のせい」と諦めず、専門的な評価を受ける価値があります。

Q10. 1 日中疲れていて何もする気が起きません

A. 疲労アパシー(無関心) の両方が考えられます。どちらも PD の症状で、性格や怠けではありません。

  • 睡眠の質(RBD・無呼吸・夜間頻尿)をチェック
  • うつ症状 が背景にないか
  • 薬の最適化(オフ時間の長さ)
  • 適度な運動(矛盾するようだが、運動が疲労感を減らすこともある)
  • やることをスケジュール化(意欲ではなく時間で動く工夫)

主治医に相談し、複合的に対処していきます。

Q11. 家族として、何に最も注意して観察すればいい?

A. 本人が言いにくい・自覚しにくい変化 に特に注意してください。

  • 行動の変化(ギャンブル・買い物・過食 = ICD)
  • 夜間の異常行動・大声(RBD)
  • 昼間の強い眠気・突発睡眠
  • 幻視・妄想を口にすること
  • 性格や対人関係の変化
  • 気分の沈み・無表情
  • 転倒の有無と回数

これらをメモして診察時に伝えるだけで、診療の質が大きく上がります。

Q12. 主治医に話すべきか迷う症状があります

A. 迷ったら相談する が原則です。診察時間が限られていても、事前に紙やスマホメモにまとめて渡す だけで十分伝わります。「こんなこと聞いていいのか」と遠慮するより、「症状の一つかもしれない」と医師に判断してもらう のが正解です。本章で挙げた症状はすべて、主治医・専門医が日常的に対応している症状です。


第9章のまとめ

  • パーキンソン病は 運動症状だけの病気ではない — 非運動症状(NMS)が QOL を大きく左右する
  • 非運動症状は運動症状より何年も早く出始める ことが多い(Braak 仮説)
  • 自律神経症状(便秘・起立性低血圧・排尿障害・発汗・体温・性機能・流涎)は対処法がある
  • REM 睡眠行動障害 は前駆症状の一つ。安全確保と主治医相談を
  • 突発睡眠 が出る方は運転禁止
  • 嗅覚障害 は前駆症状の代表格、安全対策も忘れずに
  • 認知機能の変化 は早期発見・早期対応が鍵。注意力・遂行機能から低下しやすい
  • うつ・不安・アパシー は性格や意志の問題ではなく、症状の一つ
  • 衝動制御障害(ICD) は家族の観察が決定的に重要
  • 幻視・妄想 は薬・認知機能・感染症など複数の要因。主治医に必ず伝える
  • 痛み・疲労・視覚・嚥下 も非運動症状として認識する
  • NMS チェックリスト を診察前に書き出しておくと、診療の質が上がる
  • 家族の観察と支え が治療成果を大きく左右する

参考文献

[1] Schapira AHV, et al. Non-motor features of Parkinson disease. Nature Reviews Neuroscience. 2017;18(7):435-450. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28592904/

[2] Postuma RB, et al. Identifying prodromal Parkinson's disease: pre-motor disorders in Parkinson's disease. Movement Disorders. 2012;27(5):617-626. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22508280/

[3] Pfeiffer RF. Gastrointestinal dysfunction in Parkinson's disease. Lancet Neurology. 2003;2(2):107-116. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12849267/

[4] Schenck CH, et al. Delayed emergence of a parkinsonian disorder or dementia in 81% of older men initially diagnosed with idiopathic rapid eye movement sleep behavior disorder. Neurology. 2013;81(12):1024-1031. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23892702/

[5] Frucht S, et al. Falling asleep at the wheel: motor vehicle mishaps in persons taking pramipexole and ropinirole. Neurology. 1999;52(9):1908-1910. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10371546/

[6] Doty RL. Olfactory dysfunction in Parkinson disease. Nature Reviews Neurology. 2012;8(6):329-339. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22584158/

[7] Aarsland D, et al. Cognitive decline in Parkinson disease. Nature Reviews Neurology. 2017;13(4):217-231. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28257128/

[8] Wasner G, Deuschl G. Pains in Parkinson disease — many syndromes under one umbrella. Nature Reviews Neurology. 2012;8(5):284-294. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22508236/

[9] 日本神経学会. パーキンソン病診療ガイドライン 2018(非運動症状の項). https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson_2018.html

[10] Chaudhuri KR, et al. International multicenter pilot study of the first comprehensive self-completed nonmotor symptoms questionnaire for Parkinson's disease: the NMSQuest study. Movement Disorders. 2006;21(7):916-923. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16547944/

[11] Berg D, et al. MDS research criteria for prodromal Parkinson's disease. Movement Disorders. 2015;30(12):1600-1611. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26474317/

[12] 難病情報センター. パーキンソン病(指定難病 6). https://www.nanbyou.or.jp/entry/169

医療免責

本章の内容は一般的な解説であり、個別の診断や治療方針の代替ではありません。
気になる症状があれば、必ず主治医にご相談ください。
特に 「幻覚が見える」「夜中に大暴れする」「立ちくらみで転倒する」「急激な気分の変化」「強い痛み」 などの症状は、早めに医療機関に相談を。
本章の薬剤名・商品名は 2026 年 5 月時点の情報です。最新の処方情報は添付文書を確認してください。

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9.1 「運動症状だけ」じゃないNMS が QOL に与える影響9.2 前駆期と「Braak 仮説」 — なぜ非運動症状が先に出るのかBraak ステージ(おおまかな順序)9.3 自律神経症状便秘起こる仕組みなぜ重要か対策起立性低血圧診断基準(目安)注意点対策排尿障害主な型対策発汗の異常対策体温調節の異常性機能の問題流涎(よだれ)9.4 睡眠の問題REM 睡眠行動障害(RBD)メカニズム臨床的意味程度対策不眠原因の整理対策睡眠衛生のチェックリスト日中の過度な眠気(EDS)・突発睡眠突発睡眠日中過眠睡眠時無呼吸症候群(SAS)むずむず脚症候群(RLS)・周期性四肢運動障害(PLMS)9.5 嗅覚障害メカニズム症状対策9.6 認知機能の変化PD の認知機能変化の特徴軽度認知障害(MCI)パーキンソン病認知症(PDD)レビー小体型認知症(DLB)との違いスクリーニング検査治療進行を緩やかにする生活習慣家族のコミュニケーションの工夫9.7 精神症状(うつ・不安・アパシー)うつ症状対策不安対策アパシー(無関心・意欲低下)対策衝動制御障害(ICD)感情調節不全(情動失禁)「自分は怠けているのでは」と責めない9.8 幻覚・妄想幻視パサージュ現象・サイドビジョン妄想原因対策9.9 痛み痛みの種類① 筋骨格系の痛み② ジストニアによる痛み③ 中枢性の痛み④ 神経根性の痛み⑤ アカシジア(座っていられない)対策9.10 疲労中枢性疲労末梢性疲労対策エネルギー管理の考え方(ペーシング)9.11 視覚の問題瞬きの減少 → ドライアイコントラスト感度の低下複視(ものが二重に見える)視空間認知の低下眼科受診のすすめ家庭でできる視環境の工夫9.12 嚥下の問題9.13 自分の症状をチェックするNMS の自己評価ツール簡易セルフチェック(主な NMS 30 項目の例)9.14 家族・介護者の方へ家族の役割特に医師に伝えてほしいこと家族自身のケア9.15 よくある Q&AQ1. 便秘がひどいのですが、市販の下剤を毎日飲んでもよい?Q2. 朝、立ち上がるとフラつきます。これは血圧の薬が必要?Q3. 夢を見て夜中に暴れます。配偶者を叩いてしまうこともQ4. 嗅覚がほとんどありません。回復しますか?Q5. 物忘れが増えてきました。認知症ですか?Q6. 父が「亡くなった母が部屋にいる」と言います。どう対応すれば?Q7. 気分が落ち込みます。「弱い人間だ」と自分を責めてしまうQ8. 父がギャンブル・買い物にのめり込むようになりましたQ9. 全身の痛みが強く、鎮痛薬が効きませんQ10. 1 日中疲れていて何もする気が起きませんQ11. 家族として、何に最も注意して観察すればいい?Q12. 主治医に話すべきか迷う症状があります第9章のまとめ参考文献